百合子マイラブ(今週読んだ本)

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今週読んだ本

アンドリュー・O・スミス 『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』

武田百合子『富士日記(上)』

武田百合子『富士日記(中)』

武田百合子『富士日記(下)』

小川哲『ゲームの王国(上)』

小川哲『ゲームの王国(下)』

 

仕事で、お金に関する入門書みたいなものを書きましょうか、と誘われたので、そうか〜と思ってボチボチ本を読んでいる。

お金に関する本はいっぱいあるし、入門書もいっぱいある。新規性の高い企画を出さねばならない・・・。困ったなあ。

『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』は、なんていうのか、いい意味で客観性がないというのか、「デリバティブはお前らはやめとけ」みたいな感じで断定的で、教科書っぽくなくて面白かった。教科書ってあんまり主観が入らない(ように見える書き方をする)というところがあるじゃない。

あとなんか最後に「パーティで酒をしこたま飲むのはやめろ(死ぬから)」みたいな、もはやお金全然関係ないアドバイスとかも出てきていて良かった。

 

『富士日記』。最高。最高以外ない。本当にいい。こんな文章があるなんてみんな知ってたの? 早く教えてくれたらよかったのに。私はもう百合子が好きすぎて。

もう好きすぎるから、背景とかはおいといて、百合子の最高な文章を読んでください。

ヒューマニズムみたいな感じの棚が届いた。

男の子が二人、石を下の道に投げている。(中略)危ないので注意する。男の子二人は、少し間をおいて、帰りがけの私に「クソババア」という。「クソは誰でもすらあ」と、振向いて私言う。主人に叱られる。

一人で表に出ると、あまりの暗さにドキッとする。酔って夜遅くスピードをあげて山の中を運転する素晴らしさ。お巡りさんも白バイもいない。両手を放して運転してみる。

あたしはバカだよ。バカだっていいんだ。バカだっていいから、バカな奴をバカと言いたいんだ。もっと言いたい。もっと言いたい。とまらないや

何だい。自分ばかりいい子ちゃんになって。えらい子ちゃんになって。電信柱にぶちあたったって、店の中にとびこんだって、車に衝突したって、かまうか。事故を起して警察につかまってやらあ。この人と死んでやるんだ。諸行無常なんだからな。万物流転なんだからな。平気だろ。何だってかんだって平気だろ。人間は平等なんだって? ウソツキ。

人は全部つるつる禿げ隣、毛というものが一本もなくなって、私がしめ殺して重ねておいた夢。

大岡夫人の顔色が硝子の加減か蒼白く着物が青くて、その美しいこと優雅なこと。大輪の青い朝顔のようだ!!(中略)感動したときには体操をして現わすことにしているから、車のうしろに向って「万歳」を三唱した。

主人、さつまいもの切り方が大きいといって、手でつぶしている。(中略)私「ごめんなさい」と言わないで、それを見ていた。

百合子・・・。百合子が好きで仕方がない。みんなも好きでしょう。

 

『ゲームの王国』は友達に勧められたので読んだ。めっちゃ面白かった。こういうの読むとやっぱりなんかSF以上に面白い小説のジャンルなし! とか軽率に言ってしまいそうになるな。

SFの中でも私は「限りなくありうる感じのSF」が好きなんだけど、そういうSFを書こうとすると、ディテールがゴリゴリにこだわれてしまうというか、下調べがめちゃくちゃできてしまって、1行書くために10冊本読む、みたいな、そういう感じになるよな、と思う。

この本めちゃくちゃ面白いぞ、と思ったのはこの一文を読んだとき。

がっかりしたフオンが「アメリカは国だよ」と指摘すると、彼女は猿王ソクリープに出会ったリアム王子のような顔で驚いた。

「猿王ソクリープに出会ったリアム王子のような顔」が完全に自明のこととして扱われていて、当然読者は誰も猿王ソクリープに出会ったリアム王子のような顔なんて知らないんだけど、フオンは猿王ソクリープに出会ったリアム王子のような顔を知っているから、猿王ソクリープに出会ったリアム王子のような顔っていう比喩を出して、それになんの注釈も入れないんだよね。

私はこういう、「一人称の不親切さ」みたいなものに興奮してしまう。

これまでウン十年間生きてきた人間は、ウン十年間の歴史とともに思考を行うわけで、その思考について丁寧に解説なんて入れたらそっちのほうが変だろ、という、作者の強い思想、みたいな感じがすごい好き。キャラクターと同じ視点で書いている。イタコっぽくて好きなんだ。

 

 

私はやっぱりキャラ萌えで小説を読むんだよな。

膨大なキャラクターが出てくるのにも関わらず、きちんと全てのキャラクターを記憶できて、ちゃんと肉付けされているのがとてもいい。

 

カンボジアのNPOに関わる人が「カンボジアの人たちを貧困から"救う"ことの難しさ」みたいなことを考えているシーンがあって、そこが結構ふつうに読み物としてためになる感じがあった。限りなく現実について哲学しているのに、それがきちんと小説として、ボーイミーツガールの究極系みたいな感じに機能しているのは本当にすごい。

 

面白かったなあ。小川哲、ゲームの王国ふくめて3作品しか出してないのか。今月あと2作品を読むか迷う・・・。脳裏にちらつく「Kindle破産」という文字・・・。

今週読んだ漫画

山岸凉子『天人唐草 (山岸凉子スペシャルセレクション)』

なんかときどき山岸涼子が読みたくなる時期というのが人生にはある。ので買った。山岸涼子大好きだな。今読んでも全然なんか、「思想として古いな」と感じないので不思議だ。100年後の子供が山岸涼子を読んでも同じことを思うんだろうか?

「星の素白き花束の」だけ、ちょっとウ〜と思いながら読んだかな。でも美少女がいっぱい見られたので別にいいです。かわいいね・・・。山岸涼子のかわいい子はマジでかわいい、しかもこう、いろんなタイプの「美」がある、それがとてもいい。