「それってスイミーと一緒じゃん」(先週読んだ本)

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先週読んだ本

武田百合子『犬が星見た』

村松友視『百合子さんは何色』

中央公論新社『富士日記を読む』

松本敏治『自閉症は津軽弁を話さない』

岩瀬 達哉『キツネ目 グリコ森永事件全真相』
森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか?』

マルセル・モース『贈与論』

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武田百合子にハマればハマるほど、武田泰淳という文豪のしょ〜もなさが胸にせまってくる。

ロシア旅行中、ロシア語が喋れないから、同じくらいロシア語をしゃべれない妻(武田百合子)に「喋ってこい」とイライラしながら命令する泰淳・・・。

避妊をせず、4回も中絶をさせる泰淳・・・。

団体旅行でもワガママを貫き通し、やれ今すぐビールを飲みたいだのグチャグチャ言う泰淳・・・。

人に「面白い話」をしようと、「百合子はレーニンとマルクスの違いが分かっていないんだ、馬鹿だから」とゲラゲラ笑う泰淳・・・。

 

こういう上司がいたらすごい嫌だなあ。こんな男のことをそれでも強く愛する百合子。泰淳が意味不明にクソ野郎であればあるほど、百合子の清らかさが際立つんだ。しかし先週読んだ百合子の『犬が星見た』では、百合子はうんことゲロと食い物の話ばっかりしている。

 

私は作品と作家を切り離して考えられないタイプの人間。切り離して考えられる人っているのかな・・・。

Twitterにいる怒れるオタクはいつも「切り離して考えろ」と言っているけど、好きな漫画家がいわゆるリベラル派っぽいこと(憲法改正反対とか)を言い出したら「あんまりそういうことTwitterで呟かないでほしい、作品のイメージが壊れる・・・」とか言ってしまうわけで、一貫性を持て!! と思う。

 

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森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか?』

前半までは好きだったんだけど、最後まで読んでみた結果、論の運びが甘い感じがして、ちょっと嫌になってしまった。次買うか? って言われたら・・・どうだろう。著者オリジナルの考えが今後提唱され続けるならもういいかな・・・。

論理がガバガバでも納得できたらいいんだけど(なんかとてつもないパワーがあって納得させられてしまうガバガバ論理というのはある)、そういう感じでもなかった。

前半までの、反出生主義的思想はどんなものがあるかっていうのをまとめて・解説している点は、良いなと思う。反出生主義を研究するとしたら、ここを出発点にして色々本を読み進めていく感じかね。

反出生主義はベネター読まないとお話にならないみたいなところがあるんだけど、ベネターって無意味に文章が分かりづらい上に、全然賛同できないので、嫌なんだよなあ。もっとなんかZing Zing★って感じのポップな反出生主義があればいいのにね。

 

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ポップといえばマルセル・モース『贈与論』。Kindleセールのときに喜び勇んで買い、華麗に積読をしていたのだけれども、積読を初めて1年が経ちそうだったので読んだ。ポップであった。笑いながら読んだ。贈与はバトル。こういう、笑っちゃった、みたいな本ばっかり読みたい。

一文一文がむずかしかったので、完璧に読んだ、という感じはしていない。いつか一人ゼミを開いてちゃんと読みこなす。

 

先週読んだ漫画

宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋 2』

ヨシカズ『顔に泥を塗る』

西修『魔入りました! 入魔くん 21』

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ヨシカズ『顔に泥を塗る』。

モラハラの彼氏が出てくる。モラハラの彼氏って嫌だ。作品の仕掛けとして嫌だ。モラハラという行為が悪すぎて、相対的にあらゆる登場人物が圧倒的に「善」になってしまう。悪人に苦しめられる善人が、悪人をやっつける話。構造としてはスイミーである。スイミーと構造が同じならスイミーを読めばいい。

 

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宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋 2』。

宮崎夏次系マジで好き。マジで好きなんだけど、宮崎夏次系が好き、といったときに周囲から「ビレバン系の方ね・・・」と思われるのが嫌なのであんまり言えない。

昔から、すごいドラマチックなことが起きている途中に「生活」が入っている表現がすごい好きだ。千と千尋の神隠しで、千尋が怖くて怖くてボロボロ泣きながら、めちゃくちゃおにぎりを食べまくるシーンがあるじゃない、あれはもう初めて見た9歳の時からずっと好きだ。悲しくても寂しくてもお腹は空く、そういうだらしなさがいい。

宮崎夏次系はそういう、ドラマチックさのなかに入り込む、耐え難く非-ドラマチックな生活を書くのが本当にうまい。

 

宮崎のことがたまらなく好きになっちゃったのは『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』を読んで以降。

 

これは、死んでしまったと思っていた母親が実は生きているらしい! ということを父親の遺書で知らされた主人公の話。

主人公はある日バッタリ街で、自分と同じ苗字の女に出くわす。彼女が本当に自分の母親なのか確かめなくては・・・と思い、彼女に話しかけようとする主人公のシーン。電車の中。

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むちゃくちゃいい。

スマホから鳴る大音量のマツケンサンバ、迷惑そうな客。街を歩けばそれなりの高頻度で出くわす「関わったら面倒なことになりそうなおばさん」。

母親との再会、というドラマチックな要素が、こんなに泣きたくなるほど「現実」でいいのかよ、と思う。でも、これぐらいショッキングに「現実」でなければ、ドラマチックさなんて空疎で、真正面から消費できない。

ブンちゃんの話してないんだけど、ブンちゃんもめちゃくちゃいいです。

 

 

(紹介した全ての本の出版社と出版年は省いている。すみません)