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【短編小説】恋バナがしたい

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綺麗な髪の毛、と思ったのが先だったのか、好きになったのが先だったのか、よく分からない。彼女とまだ友達ですらなかった頃の私は、彼女のことを、どこにでもいるしょーもない女だ、と思っていた。

あの頃の私に戻りたい。あなたのことを、無個性な、代替可能な、どうでもいい女だと思っていたい。

 

あなたの何が好きなのか分からない、こんなふうに恋愛をしたいだけなのかもしれない、と思う。それは遠くのほうからやってきて、私に「こうだ」とそう告げて、だからなんだか、まるで最初からそうだったみたいに、私はあなたを好きになってしまっている。

 

あなたの。

細いまなじり、赤ちゃんみたいにたっぷりした指、うっすら生えた腕の毛、似合わない青のアイシャドー、カラオケで盛り上がると繰り出す下手くそな指ぱっちん、ときどきインスタにアップする下手とも上手とも言えない弾き語り。

そう、インスタって言えばさ、あなたがインスタにアップしたあなたのお母さんは信じられないぐらいデブで、きっとあなたも将来これぐらいデブになるんだ、と思ったら、超エロい、と思ったよ。なんかこれってあばたもエクボってやつかなあ。分かんない。

ねえ、きっとさあ、今だって、ふくらんだおっぱいがあなたのTシャツとブラの下にあるんだよね。きっとお腹はたるんでるんだよね。どうなの? お腹に生えてる無駄毛とか、どうするの。処理、するのか、しないのか、分かんないけど、どっちでもいいけど、どっちにしたって。

 

古着屋さんで一緒にスカート見てたとき、ダウン症の弟がいる、と教えてくれた。お母さんはそれだから都会に住むことはきっと一生できないの。雪まみれの小さな小さな街が、あなたの故郷。18歳になるまで、信号を守る意味ってよく分かってなかった、と笑った。「今度遊びにきて」とあなたが言ったとき、こんなに悲しい社交辞令ってあるの、と、涙が出そうになった、泣いてみたかった。

 

どんなふうに彼氏とセックスするの。

 

きっと私はあなたの故郷に行くことなんてないんだろうな。困ったように笑ったのはむしろ私のほうで、あなたは泣いてしまった私を本当に苦しそうな顔で見つめていた。

好きになったことを許してくれてありがとう、と私はあなたにそう言う。いいって、全然、とか、なんだか、グチャグチャ言いながら、あなたはまたそうっと上目遣いで私を見る。

ねえ、悪いと思ってるんでしょう、悪いと思うなら一回でいいからエッチなことさせて。あーしょうもないなあ。

なんかさ。キモいって思われなくてよかった、とか、時代に感謝、とか、そういうことじゃなくない。失恋は普通に失恋のままだ。

 

明日からどうやって生きていけばいいんだろう、と思う。分かんない。でもそんなドラマチックなこと言ったって、別に私は、明日も普通に生きていくと思う。だってもうお腹すいてるし。マックでポテトLサイズ頼みたいし。

 

死ぬには全然足りないけど、「普通の人」を装うのは全然無理って感じの、具合の悪い絶望を下半身にだらだら引きずって、私は鼻水で濡れたマスクの替えが欲しくてカバンをあさる。マフラーがカバンいっぱいにみちみち詰まっていて気持ち悪い。ソーセージの中身みたいだ。思い切って買ったその長い布は、やっぱり10月に巻くにはちょっと暑かった。でもこんなふうに詰め込んだらきっとシワになるんだよね。どうでもいいよおもう世界は終わりなんだからあ。ああポテト以外にナゲットも食べようか迷う。

 

誰かいないの。どこにもいないの。この世界で私を抱きしめたいと思う人間は全員男。全員たぶん陰毛が10センチぐらいあるし、ニキビが顔中にある。やべえやつらだよ。

私はもっと、いいのに。いや、駄目かも。でもニキビないよ。分かんない。こういうことなんだよ。ああ。

ねえ、誰かいないの。全然いないの、どこにも?

 

Tinderから通知がきて、みようかなって思ったんだけど、やっぱりもうちょっと泣いてたかったから、ぎゅっと目を瞑る。次に目開けたら、そしたら見るから。

 

***

 

なんか普通の、ひねりのない恋愛小説が書きたいなと思ったので。