春になったら捨てるもの


なんで妊娠して以来こんなに情緒不安定なんだろう、と思っていたのだが、あらゆる人から「疲れているのでは」と示唆され、ようやく「自分は疲れているのかもしれない」と認める気持ちになってきた。

 

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なにしろ8月ごろから我が家はボロボロだった。夫は私があまりにも情緒不安定なのに耐えかねて出ていってしまい別居状態だったし(今は戻ってきた)。

 

しかし、夫が出ていった時期はかなりしんどかった。疲弊しているので情緒不安定なのに、さらに完全ワンオペ+離婚危機と、メンタルフィジカルどっちにも負担がすごくて……。

 

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あまりにもしんどいので、仕事はめちゃくちゃ量を減らすことにした。年収1000万ぐらい稼ぎたかったが、子供が0歳児のうちはそんな頑張らなくてもいいじゃない、という気持ち。具体的には、年収200万円台でもいいじゃない、という気持ち。

 

だって、抱っこをしてないと泣くんだもの。

あと、眠いんだもの。

 

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稼ぎたかったなあと思う。

夫が仕事をガンガン頑張っていて、楽しそうに職場の話をしていて、周囲から「素敵な旦那さんね」と言われていた。

私も同じぐらいに頑張りたいと思っていた。夫と同じぐらい稼げないと、夫との力関係が変わってしまうと思っていた。

でも、難しい。なにしろ夫は正社員として通勤をしているので、育児家事の調整がきかない。調整役として私がいて、育児や家事をほぼ全て引き受けている。だから、夫と同じぐらい稼ぐことは、もともととても難しいのだ。

 

私は、子供が夏休みになると仕事ができないし、子供が風邪を引くと仕事ができないし、子供の行事があると仕事ができない。PTAがあるとできない。

でも、休まずに頑張ったら、夫と同じぐらい稼げるはずだった。多分できる人もいる。

 

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かっこいい女の人はそういうことをする。

「うちの夫は育児も家事もしない。それに私のほうが稼ぎもいい」。かっこいい。

「子供が0歳のときに離婚したけど、今は普通の人よりも稼いでいる」。かっこいい。

私もそうなりたかった。

 

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でもできなかった。

 

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かっこいい女の人になれるはずだと思って生きてきたのに、案外なれなかった自分がとても恥ずかしい。

私は自分に言い聞かせている。

年収200万円でもいいんだ。

それぐらいしか稼げないのなんて普通だよ。

子供が小学校に入るまでは専業主婦の人だっているんだから。

そもそもほとんどの人が1年間は育休取るんだから。

子供がいるのに月収20万円ぐらいをコンスタントに得られるのはすごいことだよ。

 

でもそういうのじゃなくて、私はもっと、誰がみてもギョッとするような頑張りを自分ができるはずだと思っていた。だってこれまではできたんだから。

 

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今は、仕事量も調節して、夫に怒ることは、ここ数日はない。

これでいいんだと思う。頭で考えたら絶対にこれでいい。

なにしろ、仕事は替えがきくけれども、家族の替えはきかない。母親が情緒不安定で、子供がビクビクしながら生きるのも良くない。

だから仕事よりも家族を選ぶのは絶対に、論理的に考えたら絶対そうだ。

 

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でも、私は、やっぱり、自分のことを、女友達に誇れるような自分でいたかった、と思う。

さえちゃんは子供がいるのにずっとさえちゃんらしくてすごい、と思われたかった。子供を理由に色々を諦めるような人間になりたくなかった。

でもやっぱり、かつて子供だった自分のことを考えると、仕事を理由に誰からも愛してもらえない子供時代はとても寂しいし、仕事を理由に親が怒鳴っているのはとても怖いことだった。だから、私は仕事を今、諦めないといけない。

 

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知り合いの経営者の人から「30代の女の人は採用しない」という話を聞いた。子供がいてもいなくても、30代の女の人って面倒で、トラブルを起こすから。動物的にそういうもんなんだと思うよと話していた。「子供を産むかもしれない」という可能性、繁殖の可能性に気を取られて、仕事までは頭が回らない、そういうもんだよ、だから採用しない、40代の女を採用する。

 

こういう発言は炎上するから誰にも言わないけどね、とその男性は笑っていた。こういうことを考える人は多いのかもしれない。多分多い。みんな言わないだけで、30代の女はめんどくさい。産むのか産まないのか、産んだら産んだで働けないし、産まないのは「産むかもしれない」に見えるし。

 

あなた、学生結婚なら、学生のうちは旦那さんより賢かったんでしょう。でも男は30代でグッと伸びるから。

あなたよりも旦那のほうが賢かったわけ。あなたがこれからしないといけないのは「自分は優秀じゃなかったんだ」って事実を飲み込むことだよ。

 

そういうことをツラツラ言われて、帰宅してから自殺未遂を起こした。やっぱり死ねずに生き延びた。

 

優秀じゃないと認めるぐらいなら死んだほうがマシだとあのときは思った。

 

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生き延びたので私は優秀じゃない自分を気怠く引きずりながら生きるしかない。

まあしょうもない呪いをかけられてしまった。めんどくさい30代がこれから10年続く。

そんなの嘘だよねと思うけどやっぱり気にしてしまう。私めんどくさいですか? 確かにめんどくさい。かなりめんどくさい。

 

しかしさあ、落ち込んでるとき、わざわざああいうオジサンに会わなきゃいいんですよ。なんか会っちゃうんだよなあ。運命のややこしさ。

 

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そういう感じの日々。

つらいので、暇なときは編み物で心を無にしている。出来上がるたくさんのベビー用ニット帽、ワンピース、そして息子のマフラー。私が負った傷の分、子供の衣類が増えるのだ。