小説

【2000文字小説】なんで私たちって性別が同じだからってだけでこんな色々気にしないといけないんだろうね

なんかこういうとこで食べるご飯ってなんでか分からへんねんけどいつもソフトクリームだけ異常においしくないと章子が言った。なあ、かなこちゃんそう思わへん。いやそんなことより章子箸の持ち方おかしくない? と言おうかと思ったけど言わずにおいた。なん…

【2000文字小説】どこかで見た誰かの言葉を借りてきて使う

小島君のスマホを深夜に盗み見て、小島君が表参道に通勤しているOLと浮気をしていることを知る。LINEのプロフィールアイコンの中で笑っている彼女はわたしと同じかそれ以上に太っている。吐く息がまだ白くなかったときのことを考える。 指先がかすかすにかじ…

離婚とかそういうのじゃないの

悠紀子はそれをしまむらで買ったのだと言った。紫と黄色だ。ワンピースに描かれているのは名前も知らない大輪の花、紫と黄色。似合ってるよと言った瞬間に頭をよぎるかつての元彼ども、上原くん、郡司、光博(一生許さない)。月曜日は田守さんがつくってく…

誰かがもっと自分を分かりやすい形で迫害してくれればよかった

大学生のだらだらした日常を描く、みたいなアニメにイライラしてテレビを消したくなる。消したくなるだけで本当に消すわけではないなぜならリモコンが見当たらないからだ。こんなのばっかり馬鹿じゃないのかと言いかける。母親のつくるグズグズの煮物のにお…

あなたを勘定に加える

もうちょっと早く生まれてきたらよかったよねと閉子はいつも言っていた。閉子の膣はぐうっと硬くなってもう何も出し入れする隙間がない。そうだねと私は応えるけれども本当はだいすきなテレビ番組の続きのことのほうが大事だった。 閉子よりも大事なことがこ…

追悼はインスタ映えしない

でもそれでも私とミクノがこれから半年の間に和解できるとは、私は思わなかった。死が何かを解決してくれるということはない。あっとうてきなセンチメンタリズムを味方につけて滂沱の涙とともに謝罪や感謝を述べてはいけない。 そういうことを考えているうち…

【2000文字小説】子持ちの友人の家に遊びにいく

さきちゃんはじめまして。と言ったけどさきちゃんは無表情だった。ウーともアーとも言わない。予想と違う。そういえば姪っ子の百花ちゃんは1歳のときに初めて会ったしな。本当の本当の赤ちゃんって初めて見る。百花ちゃんはもう歩いてた頃だったのに、さきち…

【2000文字小説】いのちの電話がつながらないので死にたい

0570-783-556っていうのがいのちの電話の電話番号で、死にたくなったときはこの番号にかければよいと保健体育の教科書に書いてあった。でも全然つながらなかった。呼び出し音が鳴るだけ。130回ルルルルル、を数えたときに「この電話はおつなぎできませんでし…

【2000文字小説】不幸じゃないコンプレックス

あんた本当に何がしたいのとお母さんは泣いていた。病院のベッドは隣に死にかけのおじいさんがいて、夜中にしょっちゅうナースコールを押す。お医者さんが「学校のこととかは今は考えないで、ゆっくりおやすみしましょう」と言って、私は頷いた。 学校行かな…

【2000文字小説】どこにいても同じいつでも大丈夫じゃないの私たちはたぶん

松戸の駅で降りようとしたときに浩一さんがあ、と声をあげる。なに、と言おうとして彼が何を言おうとしていたのか分かった。 その人は臭かった。浩一さんの手のひらよりも少し大きいぐらいの段ボールを持っていた。段ボールには「お金をください」と書いてあ…

【育児・2000文字小説】あたしお母さんだから

みさとちゃんママはすごく頭がいいんだろうと思う。ママになる前は青山で映画の会社に勤めてた、と言ってた。みさとちゃんはまだ生まれて半年で、なのにみさとちゃんママはいつも早く仕事に復帰したいと言っている。保育園にどうしても入れなかったから、慌…